いつものブリーフィングルーム。いつものようにエンジェル隊の面々はウォルコット中佐の話を聞いていた。 「…というわけで、みなさんにテストして頂いたロストテクノロジーですが、いかがでしたか?」 「はい!と〜っても楽しかったですよぉ〜。」 ミルフィーユはひとり、満面の笑顔で返事をした。 「ああ、そうですか。それはよかった。…で、他のみなさんはどうでしょう?」 顔色をうかがうように全員を見まわすウォルコット。重苦しいこの場の雰囲気に気圧されているように見える。 しばらくの間ののち、ようやくフォルテが口を開いた。 「なんなんですか、中佐!?この話は!?」 その口調は、尋問でもするかのようにきびしい。 「え〜、ですからお渡しするときに説明したように、これはおそらく起こりうる未来を予知する装置であって、 その事象に最も関わりの深い人物が操作すると、それに即した未来を映像として…」 「あたしたちが聞いてるのはそういうことじゃな〜い!」 いいわけするように説明していたウォルコットのセリフをランファが断ち切る。 「そうです。みなさんがお聞きしてるのは、なぜこうもデフォルメされたお話になるか?ということですわ。」 ミントはお茶を飲みながら、微妙に不自然な笑顔を見せながら話している。 「何よミント!その勝ち誇ったような笑顔は!」 「何をおっしゃるんですかランファさん。わたくしは話を穏便にわかりやすくまとめようとしているに過ぎませんわ。」 「フン!いいわよねアンタは!それに比べてアタシは何!?あれじゃ、まるっきりトリップ女じゃない!?」 思わず立ちあがって声を張り上げるランファ。 『…わたしには、ごく的確にランファさんを再現してるように見えますがね。』 冷静な口調で横から口を挟むノーマッド。 「アンタは黙ってなさいよ、ノーマッド!あんた出番ないんだから!」 『いいえ、私も言わせてもらいます。だいたいあのタクトとかいう男は何なんですか!? この人たちならまだしも、私のヴァニラさんに手を出そうとは許せませんね。設定からしていいかげんですし。』 「『この人たちならまだしも』ってどういう意味よ!」 『さぼっ!!』 ランファの心意把でふっとばされるノーマッド。 「しかし、あたしもノーマッドの意見には同感だね。だいたいそう簡単に皇国軍の対空防御網がぬけられるもんか!?通信網より早く進撃する艦隊って何だよ?」 「そうそう、それからあたしが不満なのは、ミルフィーユとあたしの関係よ。なんであたしとミルフィーユが同期で、しかもミルフィーユの方が成績が上なわけ!?納得いかないわ。」 「わたくしを含めたみなさんが、ミルフィーユさんのことを『ミルフィー』って呼んでるのも、ちょっと変な感じでしたわね。」 「そうですかぁ?あたしはあんまり違和感感じませんでしたよ?」 「あんたはそうかもしれないけど、あたしはあんたに『ランファ』って呼び捨てにされてたんだから。気持ちわるいったらありゃしない。」 「そんなこと気にしないでくださいよ。なんならあたしのこと『ミルフィー(巻き舌)先生』って呼んでくれてもいいですよ?」 「誰が呼ぶか、誰が!」 「そういう不満はあたしにもあるね。何かあの話の中のあたしは、はじめっから妙にあの軟弱司令にからむじゃないか?まぁ普段見れないような色気は見せてたけどねぇ。」 『あれは、フォルテさんの欲求不満を端的に現してたんじゃないですか?』 パンパンパン!! サボテンに刺さっていたノーマッドの額に銃痕が刻まれる。 「アニメの出番もなくしてやろうか!?」 銃口をつきつけながら、さらにノーマッドにつめよるフォルテ。 『…遠慮しておきます。』 「ヴァニラ、あんたもこの際文句言ってた方がいいんじゃないの?」 あいかわらず黙ってじっと座っているヴァニラに向かって、ランファが声をかけた。 「はい。あの話には大きな間違いがあります。」 ランファに促されて、ヴァニラは初めて口を開いた。 「えっ、そうなんですかぁ?」 驚いて聞き返すミルフィーユ。 「死んでしまった魂も、正しい儀式を行えば四日後によみがえります。それができないとすれば、畜生界か煉獄に落ちたということです。」 「…何かいろんなところが間違ってるような気がするんだけど…。」 ランファはあまりに飛躍したそのセリフに、それ以上返す言葉がなかった。 「設定といえば、この話の中でシャトヤーン様が出てきましたけど、あんな風でよろしいのでしょうか?」 後ろの会話を無視して、ウォルコットに尋ねるミント。 「と言いますと?」 思わず聞き返すウォルコット。 「シャトヤーン様は白き月と共にトランスバールにやってきた初代聖母の末裔と言われています。白き月のテクノロジーをこの星に下賜し、またそのテクノロジーの解析・解読・理解に手をお貸しくださる方。 つまり、ロストテクノロジーと白き月に関する情報を最も多く持つ方です。それなのに、都合の良いときに『これは知っている』『これは知らない』と使い分けているのがどうも…。」 「そうだねぇ。黒き月の情報に関しても、もうちょっと知っててもいいようなもんだけど。」 フォルテもミントの言葉に同意する。 「さぁ〜?私も白き月や聖母に関してはあんまり詳しくないのでなんとも…。」 ウォルコットはあやふやに言葉を濁す。 「詳しくは、『なるほどGA講座』『真・なるほどGA講座』をごらんくださ〜い。」 「ミルフィーユ、あんた誰に話しかけてんのよ!?」 あらぬ方向に話し掛けているミルフィーユに、思わずツッコミをいれるランファ。 「あ、そういえば、この話の中のエオニアさんって、本当にいる人なんですか?」 「もう!ちょっとは人の話をききなさいよ!」 「はい。確か今はトランスバール本星の宮殿にいらっしゃるはずです。」 「ふぅん…。確かこのロストテクノロジーは『起こりうる未来を予知する装置』でしたわね、ウォルコット中佐?」 少し考え込むような様子で尋ねるミント。 「ええ、そうですが。…それが何か?」 ウォルコットは何かいやな予感がした。 「するってぇと、このエオニアさえいなければ、将来クーデターが発生することもないってわけだ。」 フォルテがピンと来たように言う。 「そっか!あたしの玉の輿計画が、こんなヘタレ辺境司令官なんかに邪魔されることもなくなるんですね!」 「そのとおりです。さすがフォルテさんですわ。」 ランファもミントもすぐさま同意する。 「よぉ〜し、みんな紋章機で出撃するよ!宮殿を総攻撃だ!」 「お〜!!」 勢いよく手を挙げて返事をするランファとミント。ヴァニラも微妙に手を挙げている。 「そ、そんなぁ!?そんなことしちゃダメですよ〜。」 思わず止めにかかるミルフィーユ。だが、ミントはミルフィーユの方に向き直って強い口調で言い放った。 「ミルフィーユさん、これがどれだけ重要な任務かおわかりなんですか!?」 ミントのその真摯な表情を見て、言葉に詰まるミルフィーユ。さらにミルフィーユの肩に手をかけて話かけるフォルテ。 「今あたしたちがこの任務を達成できなければ、今後何百何千万人もの尊い命が失われることになるんだ。」 「多くの人の命を救うために、わずかな数とはいえ人の命を奪わなければならない…。非常に過酷な任務ですわ。」 「だが、これはあたしたちがやらなければならない!この星の、いやトランスバール皇国のすべての人のために!」 「フォルテさん、ミントさん…。」 力説するフォルテとミントを見て、涙ぐむミルフィーユ。 「ごらんなさい。ウォルコット中佐も黙って見ていてくださってますわ。」 「モガ〜!!モガモガモガ〜!!」 涙ぐむ(?)ランファとヴァニラの横で、すまきにされたウォルコットがうなっている。 「わかりました!つらい任務ですけど、あたしやります!」 胸の前で拳を握り締めて決意するミルフィーユ。 「よぉ〜し!それじゃあ、あらためてしゅっぱぁ〜つ!」 さっきとは打って変わって明るい声で宣言するフォルテ。 「お〜!!」 全員、声を合わせて返事をした。 この後、トランスバールにおいてクーデターが発生したかどうかは定かではない…。