冬になると思い出すことがある。悲しく切ない思い出・・。
ここに7年前に越してきて間もない頃、カミさんはまだ仕事をしていて通勤していた。バイク乗りだったので、いつもかなり大きなバイクにまたがって(体が小さいので、バイクに蟻が乗っているようだった。)家を出るのだが、その日は真冬で雪が降っていた。
「今日は車で行くね。」そうですか・・。
カミさんは車の運転が信じられないくらいへたくそなので、雪の降る日に大丈夫かな・・と思いながらも、バイクで行かれては怖いので、「そうしなさい。」とかなんとか言った。
山のふもとの家なので、下り坂で車がスリップしてはいけないので、坂を下りるまでは僕が運転して、「いってきま〜す」「いってらっしゃ〜い」と言って別れて、歩いて家に戻った。
なにせ雪が降って、外は寒い。「早くおうちに入ってコーヒーでも飲んで温まろう」とつぶやきながら玄関を開けようとしたら・・・鍵がかかっていた。( ̄□ ̄;)!!
その鍵はカミさんの車のキーと一緒に付いていた。もう行ってしまった・・。
「さぶい〜」外は雪。家に入れない。どこも開いていない。夕方まで鍵はかかったまま・・。
しかも寝巻きのままで出てきたのだが、ジャージのポケットの中には10円玉がなぜか2つだけ入っている。
公衆電話で番号案内をしてもらって・・職場の番号を・・。足りるわけがない。
ん〜。こんなときに10円玉が2個というのが腹立たしい。
衝撃と寒さで混乱した頭を整理して考える。「そう。うちは炭屋なのだ。炭は売るほどあるのだ。」せめて暖は取りたい。幸い作業小屋は鍵がかかっていないので、なんとか雪と風はしのげる。
ところがライターやマッチがない。隣近所に借りに行こうかと思ったら、みんな勤めに出ているので朝からどの家にも誰もいない。( ̄□ ̄;)!!
燃やす炭は沢山あるのに、火種がない(家の中には腐るほどあるのに。)
また衝撃と寒さで混乱した頭を整理して考える。探すしかない。小屋の中を片っ端から探してやっと古いたんすの戸棚からマッチの箱が・・。「わー、あった〜。」思わず叫ぶ。
で、箱を開けるとマッチ棒が2本。しかも湿っているようだ。しばらくマッチ売りの少女の気分を味わう。「う〜。かわいそうだなぁ。でも俺もかわいそう。」
とにかく1本のマッチを摩ってみた。棒の先の白い粉がぼろぼろと崩れる。しまった!
もう少し考えてやればよかった。
残り1本。またマッチ売りの少女の気分を味わう。「俺かわいそうだなぁ・・。」
もううかつに失敗することは許されないのである。真剣に考える。湿気を取るために乾燥させるしかない。ポケットに入れて、靴の中に入れて・・。でも寒いので、そんなに簡単には湿気が取れるとは思えない。30分、1時間、1時間半・・もう限界。
最後の1本のマッチにお願いして、お願いして、お願いして、ゆっくり摩る。やはり粉がぽろぽろ・・。でも2回3回摩ってみて・・「ついた!!」すぐに七輪の新聞紙に火をつけて、炭を置いて着火。ここまで来ればこっちのもの。
かじかんだ手と足を炭の火で温めて、脱力。炎が神様に見える。炭屋で良かったなぁ。
時計もないので一体何時なのかわからないが、夕方までこの状態か・・。でもなんとかここで出来る仕事をして過ごそう。焼いて窯から出した炭をひたすら仕分けしていた。
どのくらい時間が過ぎたか・・。車が入ってくる音。こんな幸せな音があるだろうか?
飼い犬が主人の乗った車が家に入ってくる時、こんな気分か?
「おかえり〜。」
「いや。それがかくかくしかじか・・」
「あれ〜。そうだったの?寒かったでしょう?」
気付いてくれよ、すぐ。家と車の鍵が一緒だったこと・・。
でもとにかく帰ってきたので家に入れる。よかった〜。
今でも鮮明に思い出す。
2002.12.09
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