●「田主丸だより」2003年C 7月号●

まだ甘木に住んでいた頃によく田主丸や吉井に遊びに来ていました。その頃は車も持っていなかったので、バスでこのあたりに乗り込んでいくような感じでした。筑後川を越えると突然空気が変わると言うのか、何かそこに別世界が広がっているような感覚がありました。見るものが全て輝いているような気がしてワクワクしていました。

昔から魚釣りが好きで、川があると『何か魚がいないか』と覗き込んでしまう。それも用水路のような小さな流れがあるとじっとしていられなくなる性質です。
当時、川辺を散策している時に子供たちが魚釣りをしているのを見て、そんな心の底から湧き上がる欲望を抑えきれず『君たち釣針と糸をわけてくれないか?』と言って、せしめた針と糸を持ち歩いていた傘の先につけて川面に投げると子供たちが『?』というような顔をしていました。それくらい魚の姿が見たくてしょうがないのです。

田主丸にはまだコンクリートで固めていない用水路が結構存在します。『石組みの水路』というのも存在していてこれはなんとも魅力的な風景です。魚の宝庫ですから、やはり僕としては川底を覗かずにはいられない心境です。

田主丸には絶滅危惧種の魚がいるのを知っていますか?ヒナモロコという魚で、環境省のレッドデータブックの分類では『ごく近い将来に絶滅の危険性が極めて高い種』に指定されています。地味な魚で、昔を知る人は『メダカやろ?』というくらい普通にいた魚ですが、生息する環境が激変してもういなくなったと思われていたのです。
発見されたのは10年ほど前で、コンクリートで固められていない用水路でした。僕も見に行きましたが、水路の中だけでなくその水が流れ込む田んぼの中にまでヒナモロコの稚魚が群れを成して泳ぐ姿はなかなか感動的でした。

ヒナモロコの里親会という会があり、熱心にその増殖に励んでいます。僕も1年ほど参加していましたが、飼っている水槽に僕の子供が手や網やいろいろな物を入れて、あんまりかわいそうな上に全然増やせなかったのであきらめました。まずは自分の子供を育てよう・・。


理想としては『メダカやろ?』と言われるくらい沢山増えてくれるといいのですが、もともとの数が少ないので近親交配などの関係で現状維持が精一杯だと思います。いまやメダカですら絶滅危惧種になり、農水省・国土交通省では"メダカが生息できる水路"を大真面目に研究しているそうです。良い方向に進んでくれると良いのですが・・。

何より子供が川の方を向いて遊べる環境が、大人になってから最高の思い出になると思います。失ってしまったものを悔やむよりも、今ここにある自然を大切にするべきだと思います。

そう。そんな川辺を散策した当時を思い出して、わざわざ歩いて工房にやってくる人には、お茶とお菓子で帰るのを無理矢理引き止めるのでした。

絶滅危惧種 ヒナモロコ 
(写真提供 耳納塾 高山賢治氏)
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みのう豆本 ヒナモロコのページ

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