●懐かしいにおいと過去の記憶●



娘が水疱瘡に『ようやく』かかった。
保育所で大流行していたが、なかなか感染せず親としては『はぁ、やっと人並みに・・・』という気分なのだ。

子供たちは割と頑丈なので、病気で病院に行ったことがほとんど無く、「さぁ、今日は保育園休んで病院だ!」と言うと激しく泣き叫ぶのである。嫌がる娘を車に押し込み、病院に到着すると「こわい〜。いたい〜」と言ってさめざめと泣く。

その病院は田舎の小児科の診療所なのだが、普通の民家の一室を診察室にして、縁側あり、床の傾いた廊下あり・・となんだかとても懐かしいのである。
ここの小児科は評判が良く、院長さんはてきぱきと診察する。診察しながら看護婦さんと一緒に子供を上手になだめてあっという間に終わった。

その後水疱瘡の白い塗り薬を渡されるのだが、入れ物が懐かしい。 家に帰ってその蓋を開けて妻は「わー、懐かしいにおい」。
つられて僕も・・・これが忘れていた自分の子供の頃の記憶を甦らせた。

小学校のときに水疱瘡にかかって、塗り薬を塗った時のにおい。
学級閉鎖になるくらいクラスの友達が休んで、給食のスパゲッティーをおかわりして死ぬほど食べたこと。
熱が出て、白い薬を体中に塗ったこと。頭や口の中にも水泡ができていて驚いたこと・・・。治って久しぶりに学校に行ったら「お前が休んでいれば学級閉鎖になったのに」と友人に言われたこと・・・。

たかが薬のにおいで、ずいぶん昔の記憶が走馬灯のように(死にそうな時のように大げさなものではないが)戻ってきたのである。

そんな記憶にすっかり浸っていると、体中薬の白い点々になりながら娘が
「これ、
白い絵の具のにおい」と言う。
妻も「確かに白い絵の具のにおいがする・・・」
確かにそうなのだ。白い絵の具のにおい。

「もしかしてほんとに絵の具なのかな?」

「白い絵の具を塗っても治るんやないと?」

「実はみんな水疱瘡になると白い絵の具を渡されて、体中白い点々になって、なんとなく治ってしまったりして。」

「それじゃ水疱瘡になるとみんなお医者さんにだまされるのか??」
今も昔も白い絵の具で・・・

絵の具のにおいで、また子供の頃どんな絵を書いたか、どんなものに白い絵の具を塗ったか・・・いろいろと記憶がまた・・・。
普段は子供の頃の事なんか思い出そうと思っても全く思い出さないのに、薬のにおいひとつでなんだかいろいろ思い出した。

においというのは視覚や聴覚よりもはっきりと記憶を甦らせるのだろうか?

余談:僕の父は水疱瘡のとき体に塗った絵の具じゃなくて薬はだったと言う。
    母はだったと言う。
    妻と僕は。    
    年代によって水疱瘡のときに体に塗る絵の具の色が違うのか?



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