●脱走犯●



我が家の1歳半の息子(しんべえ)は口数は少ないがワルである。
親の隙を見つけてはすぐに脱走する。そして、そんな時は呼んでも絶対返事をしない。

その日の朝も朝食前に脱走した。
いつものように、僕は作業部屋で炭を切ったりして作業をしていると、ドアが開いてしんべえが入ってきて様々な物をぶちまけて遊んでいた。
いちいち構っていられないので、仕事を進めていると物音がしないので、ふと目をやると、もうそこにしんべえはいない・・・。

「お〜い、しんべえぇ〜!」返事をするわけはないが大声で叫ぶ。
妻も出てきて叫ぶ。
「またね!」
「とにかく探そう!」
家の前の庭木の陰や、裏の畑・・・一番心配なのは、家の前の道路に飛び出すこと。

車のクラクションが鳴った!
家の前を通った車がしんんべえを見つけて鳴らしたのだろう。
ダッシュ!
しかし、・・・姿はない。
ハァハァ、「いないぞ〜!さがせ探せ〜!」
道路の両脇をひたすら走る・・・が、いない。

もう息が続かない・・・ハァハァ。

また家の庭のあたりを探して・・・ハァハァ、それでも見つからない・・・。
またクラクションが鳴った!

「あ〜!」 見つけた!


なんと我が家の乗用車の運転席にしんべえが座っていた。
ハンドルを握っている。ライトがついたり、ウインカーが点滅する。
大喜びなのである。

お前がクラクションを鳴らしたのか!

しかも内側からロックしてドアが開かない・・・笑っている。

ふざけるな!

大掛かりなかくれんぼで、大のおとな二人が息を切らしてハァハァいっているのをよそに、車の中で不敵な笑いを浮かべているのだ。

車の鍵を持ってきてドアをあけ、犯人を拿捕した。

こうやって、僕の理想の『田舎でゆったりとした生活』は送れないのである。




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