●放浪の人1●


福岡に来てからの僕の友人(といっても10才くらい年上の先輩だが。)の一人に、詩と絵を描きながら全国を放浪している人がいる。

僕が記憶している限りでは、この人は出会った当初は隣町でライブハウスや、中東アジアのじゅうたんや雑貨を売る店(パキスタン・アフガニスタン中心だった。)、個人の美術館まで経営していた。でも当時から詩と絵を描いていた。

頭の回転が速く、とても繊細な人ではあった。が、なんと言っても芸術家肌で、自分でいろいろなことに没頭して何かを積み上げては壊すという作業を繰り返していたような気がする。

したがって、当時いろいろなビジネスに没頭していると思ったら、突然自転車に乗って旅に出てしまって(あるいは『坊さんになる!』とか言って行方不明になる。)、店はほったらかし。・・というような事態がしばしばあった。

その辺の心境を詳しく聞いたことはないが、彼の言葉に『実際に経験した事でないと絵や詩を書けない。』というのを何度か聞いた。だから行き詰まるとその『経験』を探しに行くようでもあった。

そして旅から帰ってきては、前のビジネスをたたんで、弁当屋・サンドイッチ屋・カレー屋・蕎麦屋など転々と商売替えをしていた。そして最後にはそれらをぱったりと止めて、自分の詩に絵を添えてはそれを生業としていた。

そのたびにいろいろな人に迷惑をかけていた様であるが(借金を踏み倒す、約束を破るなど)僕はそのあたりには距離を置いていたので詳しいことはわからないし、実害も受けていない。

何年か詩と絵を書いていたが、『喰えない。』と言って、大阪と東京に自分の絵を抱えて売り込みに行った。それが1999年の年末だった。片道の電車賃しか持っていなかった。

つづく

2002.08.09
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