彼は世紀末に東京に着いた。たぶんクリスマスの頃だったと思う。百円も持っていなかったらしい。
ホテルに泊まるお金が無いので新宿西口あたりでホームレスの人たちに混じって寝たと言う。「縄張りがあってさ、どこでも寝れるわけじゃないんだ。」
しかも食べ物も買えないのでホームレスの人に混じって、慈善団体の食事の提供を受けるのに行列に並んだらしい。
手持ちの絵をギャラリーに売り込みに行こうにも、年末年始はお休みらしく、世紀の変わり目はホームレスとして迎えていた。好きなタバコは、吸い殻を拾ってほぐして新たに紙に巻いて吸ったそうだ。最低限のお金は自分のはがき絵や、拾った漫画を売ってしのいだ。
『世の中世紀末だとか21世紀だとか言って浮かれてるけど、俺はホームレスだった。何も関係ないよ。どん底を経験した最中だったから。』などと、こっちに戻ってから重い言葉を発していた。
かなり衝撃的な世紀の節目を経験した後、いくつかのギャラリーに絵を売り込み、個展をする算段をつけて、帰りの電車賃を稼いだところで帰ってきた。
でもやはりしばらくは、社会的に見ると底辺の生活を続けていた。「2日ほど何も食べていない。」とか言うので、夕食の差し入れと、タバコを御土産に数回家に訪れた事があった。
『ある雑誌の文芸大賞に入賞したから、詩集を出すことになった。印税生活だ!!』とある日浮かれた調子で電話がかかってきた。(そんな事あるかなぁ〜。)と思ったらやはり騙されたらしい。要するに自費出版をして版権を自分で買いなさいという内容だった(・・と思う)。
しばらくは現実に打ちひしがれて、へこんでいる様子だった。そしてまた旅に出ると言う。その頃は確か、工事現場の通行整理のアルバイトをしていて、これに没頭していて絵を書けなかった頃だと思う。
つづく
2002.08.13
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